プロジェクターでは、基本要素である「光源」、「画像表示パネル」の性能に加え、「レンズ焦点距離」「ズーム」「レンズシフト」などの性能が使いやすさを左右します。各社からホームシアター向けのプロジェクターが発売されており、カタログにはそれぞれの優れた点が謳われています。しかし、聞き慣れない項目が多く、また様々な方式が混在しているため、その善し悪しの比較は難しいものです。ここでは、プロジェクターの基本性能に関わるチェックポイントや使い勝手の違いをまとめてみました。
光源
画像を投射するための光は、効率良く耐久性に優れたUHEランプ(超高圧水銀ランプ)が使われており、1つのランプで画像全体を照らします。明るさの単位はANSIルーメンで表示されていて、数字が大きい程明るい画像になり、照明のある部屋でも見られる製品もあります。
ランプは使用することで劣化し、だんだん暗くなっていきます。数千〜5千時間程度で交換が必要になります。(各メーカーのランプ交換時期は明るさが半減する目安時間であり、その時間でランプが切れてしまうわけではありません。)
【ルーメンとは】
明るさの単位として使われるルーメンは、光の量を表す単位です。白色光を照らしたときの平均照度(ルクス)に面積をかけたものがルーメン値になります。プロジェクターで表示されている数値は、ANSI(アメリカ規格協会)の定めた9点測定方法に従ったものなので、「ANSIルーメン」とも表示されます。
以前のプロジェクター業界では、ルーメンやルクス等表示がバラバラで非常にわかりにくかったのですが、社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会が策定した測定/表示方法のガイドラインに従って「ルーメン」で統一されるようになり、性能が比較しやすくなりました。
画像表示パネル
フィルムに相当する画像を作るための一番重要な部分です。開口率(パネル面積に対して光が通過できる面積の割合)が大きい程明るくなり、画素数が多い程きめ細かい画像になります。画像表示パネルには、いくつか方式があり、どの方式を採用しているかで画質の特徴が異なります。
●単板式液晶パネル
単板方式は、1枚の液晶パネルにRGBの画素が並んでいて、透過光で作った画像をそのままスクリーンに投射します
。スクリーン上の画像は、プラズマテレビや液晶テレビと同様に、RGBの点が密集した画像になります。部品が少なく構造がシンプルなため安価にできますが、1色あたりの光量が少なくなるので画像が暗くなります。
●3板式透過液晶パネル(3LCD方式)
3板方式は、光源の光を特殊なミラー(ダイクロイックミラー)でRGBの3色に分け、それぞれの色専用液晶パネルで画像を作った後、再び特殊ミラーやプリズムで画像を重ね合わせてからスクリーンに投射します。色を分けることで画像表示パネル上での1画素あたり面積が大きくなるため画像が明るくなります。また、色を重ね合わせることでスクリーン上に色そのものが表示されるので、滑らかで目に優しい画像になります。
●3板式反射液晶パネル(D-ILA方式、SXRD方式)
透過式液晶パネルは、液晶パネルに光を透過させて各画素の光量を制御することで画像を作ります。ところが、各画素には制御用素子が必要なため、開口率が小さくなり、結果として画像が暗くなってしまいます。
一方、反射式液晶パネル(D-ILA方式、SXRD方式)では、液晶パネルに光を反射させてその反射量を制御することで画像を作ります。各画素の制御用素子を液晶パネルの背面に置くことが出来るため、開口率が大きくなり、明るい画像が得られます。
●単板式反射DMDパネル(DLP方式)
DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)パネルは、微細な鏡の角度をコントロールすることにより光を反射して画像を作ります。光の反射効率や耐久性に優れており、コンパクトなわりに明るい画像が表示できます。
ただし、カラーを表示するためにRGBの光を交互に照射して画像を作るので、実際は赤画像/青画像/緑画像の連続表示でフルカラーに見せています。明るく鮮明な画像になりますが、瞬間的な単色画像の連続なのであまり目にいいとは思われず、長時間画像を見続ける映画鑑賞等には向かないかもしれません。
RGBそれぞれ専用のDMDパネルで画像を作る3DMDパネル方式の製品でも発売されれば、画像のちらつきが無く、明るい画像の一番優れた方式になる可能性もあります。
これらの画像表示パネル技術は、プロジェクターの一番重要なポイントとなる部分で、各社が最新の技術力を競い合っています。
投射距離
画像を映すのに必要な距離です。投射レンズの焦点距離が短い程、短い距離で大きな画像を表示することができます。しかし、単に投射距離が短ければ良いというわけでもありません。丁度よい画面サイズになる距離にプロジェクターを置くと、見る人の居場所が無くなってしまったり、後ろの壁際に置くと、画像が大きすぎてスクリーンからはみ出してしまうなんてこともあります。
そんなことにならならためには、先にスクリーンを設置する場所と見る人の位置をだいたい決め、見る人の前にプロジェクターを置くのか、それとも後ろに置くのかを決めると良いでしょう。そして、それに合った投射距離のプロジェクターを選ぶと、簡単にホームシアターが実現できます。
ズームレンズとレンズシフト
単焦点レンズのプロジェクターでは、映したい画面サイズによってプロジェクターの設置位置(距離)が決まります。しかも画像が歪まないようにするにはスクリーンに対して直角の向きに置く必要があり、設置位置がピンポイントで決まってしまいます。だから、大抵一番の特等席にはプロジェクター本体が居座ることになります。単焦点タイプのプロジェクターでは、なかなか部屋の都合と合わないのが、設置の難しいところです。
そんなときに有り難いのが、「ズーム」と「レンズシフト」機能です。
ズーム機能があるプロジェクターでは、欲しい画像サイズに対してプロジェクターの位置を前後にずらすことができます。ズーム機能は画像を拡大して見るためではなく、投射距離の幅を広げるためのものと考えた方が良いでしょう。
同様にレンズシフト機能があるプロジェクターでは、左右方向または上下方向にプロジェクターの設置位置をずらすことができ、特等席をプロジェクターから見る人に取り戻すことができます。
レンズシフトと似た機能として、「デジタル台形補正(キーストーン調整)」という機能を持った製品があります。プロジェクターやスクリーンの設置場所の都合でどうしても画像が歪んでしまう場合に、画像自体を逆の台形に変形して表示する機能です。「レンズシフト」が光学的に台形画像を補正しているのに対し、「デジタル台形補正」では画像自体を変形するので、縮める側の画像は劣化してしまいます。写真や映画等ではあまり気にならないかもしれませんが、画面上の文字はぼやけて見辛くなるので、あまり頼らない方がよいでしょう。
静音設計
特大画面を手軽に楽しめるプロジェクターですが、その最大の欠点は、なんと言ってもランプを冷却するためファンの騒音です。大画面で映画の静かなシーンを見ているときには、ファンの音がひときわ大きく感じます。
ですから、ファンの騒音はできるだけ小さいものがベストです。映画鑑賞向けに明るさを抑えて静音性を重視したプロジェクターを選べば間違いないですが、明るいハイパワープロジェクターでも光量を抑えて騒音を低減する「シネマモード(シアターモード)」対応であれば、明るい部屋での鑑賞と映画鑑賞を両立することができます。
また、プロジェクターの排気口の向きもチェックしておくとよいでしょう。プロジェクターを設置したときに、視聴位置と反対側に排気口があると、騒音や光漏れの影響が少なくなり、より快適に視聴できると思います。