■pdfmarkってなんだ?
「pdfmark」はPostScript記述の中に挿入するPDF用コマンドで、pdfmarkをPostScriptファイルのプログラム中に挿入することでAcrobat
Distillerの隠れた機能を引き出すことができる。
アプリケーションのPDF作成機能やAcrobat Distillerのオプション設定ではできないことも、pdfmarkを使うことで実現できる。
Acrobat DistillerはRIP(Raster Image Processer)の一種と考えられるが、紙やフィルムに印字するかわりにPDFファイルを生成する。このPDF
は単なる紙の電子化ではなく、しおりやハイパーリンク、プレゼンソフトのような画面表示エフェクトなど様々な「仕掛け」を仕込むことができるのだが、これらの「仕掛け」は通常、Adobe
Acrobatを使ってPDFを加工することで「後から付け足す」ことになる。この「後から付け足す」めんどうな作業が、pdfmarkを使えばDistillerを通してPDFが生成された時点で終わっているのである。pdfmarkをうまく使えば、めんどうな作業をDistillerに自動的にやらせて、その間にお茶の一杯も飲めるというわけだ。
●pdfmarkのメリット
pdfmarkはどこにでもあるテキストエディタで記述し、何らかの方法でPSファイル中に挿入する。pdfmarkにはデバッグ機能を備えたエディタのようなものがなく、実際にDistillerを通してトライ&エラーを繰り返すしかない。当然、使いこなすにはPostScriptについてある程度の知識が必要になってくる。pdfmarkを試行錯誤している間にAcrobatで加工したほうがよっぽど早いぞ、てなことにもなってくる。
では、そうまでしてpdfmarkを使うことにいったいどんな恩恵があるか。
これはもう、同じことを何度も繰り返す必要がなくなる、ということに尽きるだろう。そして、繰り返す過程での操作ミスも回避できる。
一発勝負で作りっぱなし、決して校正も改訂もしない、さらには流用の可能性もないようなドキュメントならpdfmarkに出番はない。しかし、朱字を修正するたびにPDFを作り直してあれこれ加工するとしたら、しかもそれが100ページ以上もあったら、pdfmarkの恩恵は十分にあるのではないだろうか。
●pdfmarkの利用法
pdfmarkをPSファイル中に挿入するには、いくつかの方法がある。
- PSファイルに直接挿入する
LaserWriterやAdobePSなどのプリンタドライバでPSファイルに保存したものをテキストエディタで開き、直接記入する。
- EPSファイルにしてドキュメントに貼り込む
EPSファイルに対応しているアプリケーションソフトであれば、EPSのルールに沿った記述をして拡張子“eps”で保存したpdfmarkを貼り込むことができる。
- 「prologue.ps」ファイルに記入して使用する
Acrobat Distillerには、「prologue.ps/epilogue.ps」というオプション機能がある。
この機能を使うと、PSファイルをPDFに変換する際に、そのPSファイルの前後に他のPSファイルを挿入し、合体したPDFを作成することができる。
例えば、表紙と裏表紙のように不変のページをあらかじめPSファイルとして保管しておき、内容の異なる本文部分のみを 差し替えたPDFを作成できる。
この機能を利用して「prologue.ps」ファイルにpdfmarkを記述しておけば、テキストエディタで大きなPSファイルを開くことなくpdfmarkを挿入することができる。
●pdfmarkの一例
pdfmarkは、Acrobat DistillerがPSファイルをPDFファイルに変換する過程で機能を発揮する。
Adobe社の PageMakerやFrameMakerは、PDF変換時にいろいろな「仕掛け」を自動作成できるが、そのような機能がないワープロやページメイクソフトでも、pdfmarkとAcrobat
Distillerを利用すれば「仕掛け済み」のPDFファイルができる。
下記は、PDFの文書情報への書き込みと、1ページから8ページまでの各ページのしおりを作成する例である。
ワープロなどで作成した8ページ以上の書類のPSファイルをテキストエディタで開き、下記を第1行と最終行以外の任意の行に挿入する。これをAcrobat
DistillerでPDFに変換すると、しおりがすでにできているというわけだ。
pdfmarkの記述形式は、行頭の“[”(ブラケット)で開始宣言、“/”(スラッシュ)で始まる個々のコマンドを列記し、“pdfmark”で終了となる。
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%--pdfmark開始--
%--プリントアウト保護
/pdfmark where {pop} {userdict /pdfmark /cleartomark load put}
ifelse
%--文書情報
[/Title (Bookmark Sample)
/Author (KUNITEC Co., Ltd.)
/DOCINFO pdfmark
%--しおり作成
[/Count 8 /Page 1 /Title (Pages)/OUT pdfmark
[/Page 1 /Title (Show Page 1)/OUT pdfmark
[/Page 2 /Title (Show Page 2)/OUT pdfmark
[/Page 3 /Title (Show Page 3)/OUT pdfmark
[/Page 4 /Title (Show Page 4)/OUT pdfmark
[/Page 5 /Title (Show Page 5)/OUT pdfmark
[/Page 6 /Title (Show Page 6)/OUT pdfmark
[/Page 7 /Title (Show Page 7)/OUT pdfmark
[/Page 8 /Title (Show Page 8)/OUT pdfmark
%--pdfmarkここまで--
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“%”で始まる行はコメント。3行目はコメントに書いてある通りプリントアウトを保護するための記述である。
PSファイルは通常、Acrobat Distillerでも実在のPSプリンタでも出力できるが、pdfmarkを解析できるのはAcrobat
Distillerだけであるため、pdfmarkを挿入したPSファイルは、そのままでは実在のPSプリンタではエラーになってしまう。3行目の記述はこれを回避するためのおまじないである。
11行目の“Count 8”はしおりの親子関係を定義している。「下位に8つのしおりを持つ」という意味である。
結果の図
↑6〜7行目に記述したTitle(タイトル)、Author(作成者)が自動的に記入されている。
↑11〜19行目に記述したしおりが自動的に作成されている。
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●参考文献
- pdfmark Reference Manual
AcrobatパッケージのCD-ROMに収録されているPDFドキュメント。標準インストール状態であれば、Acrobat Distillerのヘルプメニューから参照できる。
- Acrobat4.0技術詳述
インターネットのための Acrobat/PDF
著者:トーマス・マーツ
出版:東京電機大学出版局
サイズ:B5変型判 / 288p
ISBN:4-501-53020-0
発行年月:1999.5
- KT
WORLD
DTP専門誌に連載されたこともある、玉麻巧二 氏のウェブサイト。